古川裕倫の「いろどり徒然草」4月号

「自己開示が大事である」とは、手品師マギー司郎さんの教えである。

数年前、彼が子どもに手品を教えるのをテレビで見た。2日間かけて、子ども達は手品をマスターしていく。1日目の終わり、マギーさんは子ども達に「家に帰ったらお父さんとお母さんに自分のダメなところを聞いて来る」という宿題を出した。そして翌日、宿題をしてきた子ども達に、次のような話をする。

「自分が手品をする時には、まず初めにクラスメイトの前で、例えば”宿題をすぐにやらない”とか”食べ物の好き嫌が多い”などと話すんです。そうすると何が起こるかというと、手品をやる側と見る側の心の距離がぐっと縮まる。そうやってから手品をするから、ワッと受ける。だから自己開示というのは、とても大事なことなんですよ」

1ヶ月後ぐらいに彼のステージがあるというので、私は自分の目で確かめてみようと観に行くことにした。まず出てきたのは、Mr.マリックさんだった。車が出てくるような、すごい手品を披露してみせる。その次が、マギー司郎さんだ。ふらふらと舞台袖から出てきたと思えば、マイクに頭をぶつけて笑いをとる。早速簡単な手品をするも、失敗。会場がどっと沸く。そして、「最近よく女房に叱られるんです。後1回だけ、チャンスをください」と言って、もう1度手品をしてみせる。先ほどよりも遥かに難しい手品を、今度はズバッと鮮やかに成功させる。会場が、割れんばかりの拍手に包まれる。心を一にするプロの技に、私は大変感銘を受けた。

私もそうであったように、仕事をしていると、つい知らず知らずのうちに背広の上に「甲冑」を着るようになる。失敗談や欠点はできるだけ外に出さないようにして、身を守る。しかし、先の例のように、その場のコミュニケーションを良きものとしたければ、本来「甲冑」などは必要ない。

「立志塾」でも受講生同士まずは自己開示をすることから始めているが、そうすると、毎回「悩んでいたのは自分だけじゃなかったんだ」との声が聞こえてくる。誰しも悩みは持つものだ、と分かるのは大きい。そこから初めて、肩ひじを張らないコミュニケーションが生まれていく。

イノベーションを起こしたりダイバーシティを推進していくにも、自己開示はいい潤滑油となる。多様なアイディアを集めそれを活かしていくためには、立場・目線を同じくし、ざっくばらんに話ができることが必要だ。確かに、日本は文化的にも「暗黙の了解」を好む傾向にあるし、仕事をする上で逐一全てを話したり聞いたりしていては効率は上がらない。しかし、もう少し肩の力を抜いてお互い話ができたら、もっと解決できる課題も多いのではないか。年齢や役職や性別などバックグランドの違いを越え、より身近から語り掛けてくる相手の言葉に、人は共感したり突き動かされたりする。

「立志塾」に登壇いただいているゲストは、いずれも経営者や役員など企業トップとして手腕をふるわれてきた方々だ。「今」だけに焦点をあてると華々しいが、誰しもがそうであるように、紆余曲折を経ての「今」である。登壇いただく度、そうした過去の紆余曲折を含め受講生に対して爽やかに自己開示をされるから、さすがだ。「生き方」「働き方」について、失敗談を交えながらも、説得力のある惹きつけられるお話しぶりである。

ゲストの1人である石村弘子さんは、外資系IT企業の日本代表をされている。新卒で入社した銀行を3年で辞め、その後専業主婦として10年間アメリカで暮らした。帰国後、仕事については0からの再スタートだったが、色んなご苦労を経て現在に至る。そうして振り返ったご自身のキャリアを、最後は「振り返れば一本道」とまとめられている。一見繋がりがないように見える人生の経験も、実はどこかで繋がっている。まっすぐでもジグザクでも、自分が歩いてきた人生の軌跡は一本である。仕事があるということはありがたいことである。そして、仕事は面白い。

受講生のほぼ目の前という位置で、まさに「ざっくばらんに」ご自身について語っていただくお話からは、人生の選択肢が一つでないことを教えられる。そしてそんなお話を、受講生は我が身と重ね合わせながら聞く。それから最後はやはり、「ざっくばらんに」質問をする。

結婚・出産・育児・介護・伴侶の転勤等、特に女性にとっては、キャリアは複雑に見えるかもしれない。しかし、自己開示によってそれぞれが抱える問題を共有し合ったり一緒に解決策を探したりしていると、複雑な問題もだんだんとシンプルになっていく。

甲冑を脱いで集まってくるのは、敵よりも味方の方が多い。

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