古川裕倫の「いろどり徒然草」5月号

読書の効用
~月額数百円のビジネススクール~

「馬を水飲み場に連れて行くことができても、水を飲ませることはできない」

「役に立つから」と親や先輩がいくら言ったところで、読書をしない人はしない。今でこそ偉そうに本を書いている私も、そうだった。

転機は、38歳の時だ。

「君、2ヶ月後にはニューヨークだろう。これを読んでおきなさい。」
私のメンターの一人であり当時の上司であった島田さん(現、津田塾大学理事長)はそう言って、山積みの本をドーンと私の机の上に置いていった。ちょうど、私の海外転勤が決まった頃である。経営書だとか、情報通信の本だとか、とにかく色々なジャンルの本が入っていた。

当時の私は、例えるなら”機関車”だ。「よく働く」とは言われたが、「頭がいい」と言われたことは1回もなかった。要するに、何も考えず、ただ一生懸命働いた。ずーっと残業したり、土日も出勤したりしていた。研修へもほとんど行かず、本も読まず、学びと言えばOJTだけだった。

だから、いただいた本を読んだ時は、新鮮な衝撃を受けた。「点」でしか分かっていなかった物事が、「こういうことだったのか」とどんどんと繋がっていく。全て読み終え、今度は自分でも本屋へ行ってみた。一度分かると、なるほど、本の山=宝の山である。

「名経営者には、読書家が多い」が、私の持論だ。なにも「経営者になるために読書をせよ」とは言わないが、学ぶ姿勢を持っている人は、周囲の信頼も得やすい。読書は非常に効果の高い「投資」だ。安ければ数百円で、偉人・先人の知恵に触れることができる。著名人の講演を聞くのに1回数千円から数万円支払うことを考えれば、エッセンスが詰まった本の貴重さが分かる。

◇何故読むか
(1)物事の流れを知ることができる
(2)知識が増える
(3)道理が分かるようになる
(4)自分がしたことのない経験ができる(疑似体験ではあるが)
(5)理解力・説明力・人間力が鍛えられる

◇何を読むか
(1)先人の教え「人は新刊にすぐ興味を持つが、(古くても)良書を読め」。
(2)ビネスパーソン向けお勧めジャンルは、「ビジネス書」「自己啓発書」「歴史書」「自伝」。
(3)書店でパラパラ見て、自分の役に立ちそうなことが2−3個あれば買ってみる。
(4)「易しい本」を選ぶ。「先生」を目指すわけでなければ、英文学なら日本語訳、古典なら現代語訳でいい。最初から難しい原書を買うから読み切れない。興味があるものだけ、原書を後で読む。

◇どう読むか
(1)「自分の考え方や行動」と「本」とを比較しながら読む。
(2)線を引いたり、折り込みを入れたり、「なるほど」「ホント?」
などとコメントを書き込む。
(3)良い箇所、良い本は時間をおいて繰り返し読む。
(4)「つまらない」と思ったら、サッサと読むのを止める。別の本に
取りかかる。10冊中2冊ぐらい「挫折本」や「積ん読」があってもいい。
全ページ読む必要はない。
(5)読んで知識が増えたら、実行に移す。「知行合一」。 

◇どれだけ読むか
(1)まずは最低月1冊読む。2週間に1冊(年間26冊)読めたらなお良い。
読書に慣れている人は、1週間に1冊(年間52冊)を目指す。
(2)2万円ぐらいをポケットに入れ、書店で「大人買い」をしてみるの
もいいきっかけとなる。

◇「時間がない」と言う人は
(1)1日15分、隙間時間を見つける。一冊読むのに3、4時間かかるとして、これだけで2週間に1冊(年間26冊)読める。
(2)本当に時間がないという人は、何かを止めてみる。吉田兼好いわく、「何事も捨てじと取り持てば、一事もなさぬなりけり」。(何事も捨てずに全部やろうとしたら、なにも成し遂げることができない)

人間、1度読書をする習慣が身につくと、後は自然と学び続けるようになる。スキルを磨いたり人間力を高めたり、自己研鑽し続けることは重要である。

ポイントは、「気付き」だ。気付いた時に、人は最も成長する。これは自分だけでなく、部下でも子どもでも同じことであり、本は、いろんな気付きを得るための大変便利なツールと言える。新しい考え方やノウハウをただ「知る」だけでなく、自分のできていることできていないことを新たに発見できたり、他人からもらったアドバイスをより深く咀嚼で
きたりするようになる。対面で言われて分からなかったことも、活字を通してみるとすんなりと入ってくることもある。主催している無料読書会が7月に第100回を迎えるが、上記についてはここでも共感をいただいている。

最後に、以下、「立志塾」で毎月受講生に提出いただいている課題(気づきメモ)を一部抜粋したい。講師含め、会社も職種も年齢も異なるメンバーが、半年を通して意見を交わし合い、学び合う。私自身、受講生から多くの気付きをいただいている。

◇自分は無意識に枠の中だけで物事を考えているのだと思い、驚きました。行動としては、枠の中(コンフォートゾーン)から外に出ようと意識してはいるものの、やはり考え方は枠の中を中心に考えているようなので、意識的に枠の外をイメージしないと、と感じました。

◇ただ業務上優秀なだけのリーダーでは部下はついてこず、他部署や上長の説得を行ったとしてもそもそも人間力が低評価な人物では説得に成功するのはやはり難しい。人事評価に直接的につながらないとしても右脳の面も大事にして両輪を駆使できる人物になりたいと思った。

◇「First come, First served.」スケジュールを安易に変えない。約束を守る⇒信頼につながる。最初に決めた予定をきちんと実行する事は信頼関係を築くのに必要だと思う。

◇M&Aのニュースは株価にも大きな影響を与えますが、M&Aの内容まで深く考える事が出来ていませんでした。M&Aによるメリット、デメリットを考え、目先の業績ではなく長期で見た話を出来るようになりたい。

◇人を説得することが非常に難しいと感じることが良くある中で、自分の理論で説得することに注力してしまいがちだったが、「相手は思い通りにはならないし、変えられないもの」と思えば、すっと腹落ちすることができた。説得に心的ストレスは感じないようにし、また別の進め方を考えていかないといけないと思った。

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