後援:株式会社ファーストプレス
講師古川ひろのり (株式会社多久案)
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1954年 大阪府生まれ 1977年 早稲田大学商学部卒業 1977年 三井物産株式会社入社 エネルギー本部、情報産業本部、業務部投資総括室 うち10年間はロサンゼルス・ニューヨークに勤務 2000年 株式会社ホリプロ入社、取締役執行役員経営企画室など 2006年 株式会社リンクステーション入社、代表取締役副社長 2007年 株式会社多久案設立、代表取締役社長に就任 |
- 年功序列制・終身雇用制が実力主義に変わりつつあり、「エスカレーター時代」が終焉 を迎えた。少子化の時代ともなり、会社にますます効率化が求められている。
- そういう時代に必要な現代流リーダーシップとは何か。
- 昔より今の時代の若者ほど学びたいという意識が高い。どう教えるか。
- 社員が持っている力の60%しか出さないのと、120%出す違いは何か。
日時平成20年10月1日 水曜日
会場ベルサール飯田橋
当日の様子
おかげさまで満員御礼となりました。皆様からのご意見・ご感想を取り入れ、より有意義で楽しい会にして参りたいと思います。
名刺交換会も賑やかで和気藹々。素敵な一時をありがとうございました。
ご参加頂いた皆様に深謝です。
参加企業名
アオイテック、アクタス、一楽、GABAマンツーマン英会話、上牧温泉辰巳館、かんき出版、企業研究会、協進印刷、クリエイト・インターナショナル、グローバルマネジメント研究所、こう書房、サンゴバン・セラミックマテリアルズ、シー・アイ・エス・ホールディング、スポーツプレックス、集英社、住宅金融支援機構、ジュリアーニ・セキュリティ&セーフティ・アジア、シンマテック、第一生命保険相互会社、大気社、大和書房、中京大学、中経出版、テレビ東京、東電ライフサポート、ドコモ・ドットコム、NTTドコモ、NPO情報システム支援センター、日経BP社、日興コーディアル証券、日本経済広告社、日本実業出版社、日本駐車場開発、日本テレビ、日比谷パーク法律事務所、扶桑社、ファーストプレス、マグネットコンパス、松浦クリニック、三笠書房、三井物産、三井倉庫、みずほ総合研究所、もしもしホットライン、ライムライト・ネットワークス・ジャパン、八重洲出版 【順不同】
講演録 「3年で辞めてしまう社員をどうやって育てるか」
-若手がやる気を出し、会社価値を高めるリーダーシップとは-
講師 古川裕倫
いま、入社から3年で3割の社員が辞めてしまうと言われています。ただ、今の若い人は、理由もなく辞めるわけではありません。私は、若者の早期退職の要因のひとつとして時代の変化があると思います。
バブル崩壊後、企業と従業員との関係は劇的に変わりました。
かつての終身雇用制と年功序列制はもはや終わりを告げ、現在では企業と従業員は契約関係であるという認識になりました。
以前は、企業と従業員の間は契約以上のもので結ばれていたように思います。会社にはお世話になっています、ご奉公しますといった言葉も残っていました。今はそんな言葉はどこにもありません。
しかし、会社には、特に経営者層にはまだまだ昔の価値観で育った社員がいます。企業のスパルタ教育時代に育った人、入社年次から言えば団塊の世代以上です。
また一時、新人類という言葉が流行しました。当時、新人類と呼ばれた彼らももはや40代半ばです。
終身雇用制、年功序列制が崩壊した時代に育った新入社員と、また違う価値観で育った上司。価値観の衝突が起きるのは、ある意味当然ではないかと思います。
学校と家庭の役目
今、「道徳」という教科が存在しない学校が多いようです。
江戸時代には武士の道徳がありました。明治から昭和までは「修身」が生きていました。親を敬い、大事にする、人間らしい誠実な生き方をする。道徳や修身は、すばらしい教えではなかったかと思います。
道徳の授業には点数がつきません。運動会では1着でも5着でも皆が「よくできました」だそうです。それでは道徳の授業を真面目に聞いていた人、運動会に向けて一生懸命練習し、駆けっこを早くした人はどうなるでしょう。彼らの努力は、今はもはや評価されないものとなってしまったのです。
三歩下がって師の影を踏まず、といった良き礼儀もどこかへ行ってしまいました。日本人は礼儀正しいと言われます。今はどこに礼儀があるでしょうか。電車に乗れば若者が大股を開いて座り、口をぽかんと開けて眠っています。本当に情けない姿です。
家庭も変わりました。昔は地震カミナリ火事オヤジと言いました。つまり、オヤジは威厳のある怖い存在だったのです。今、父親の威厳はどこにあるでしょう。父親は月曜日から金曜日まで働いています。だから土日は疲れはてて丸太のように寝ている。子どもはその姿しか見ていません。寝てばかりの父親を子どもは尊敬しなくなりました。
これは父親の方にも問題があります。子どもが小学生の時は算数の宿題も教えられた。けれど中学の数学になるともうお手上げ。その時点で子どもの教育を放棄している父親は多いのではないでしょうか。私は、父親が教育のすべてを放棄することはないと思っています。父親には仕事の喜びを子どもに語るという大切な役目があるのです。
自分の学校の先輩がどこかの会社に入って2年、3年たっている、そこに行って先輩の話を聞くことを先輩訪問と言います。それはそれでいいことです。けれども、入社2年3年の社員とサラリーマンを何十年もやっている父親とどちらが会社のこと、社会のことを知っているでしょう。もちろんそれは父親の方でしょう。
会社はこういうところだ、こんな尊敬する人がいるんだと父親は子どもに話ができるはずです。そして仕事の喜びや達成感、満足感。そういったものまで父親は伝えることができるのです。しかし残念なことに、そういう父親がずいぶん少なくなってしまったように思います。
若者にはキャリアパスが見えない
さて、そんな中で、最近の若い人はどういう考え方をしているでしょう。
彼らは、今の世の中は実力主義であることをよく知っています。そのため、自分が実力をつけることに対しては非常に意識が高く、どうやったら実力が付くのかということを常に真剣に考えています。
私たちの時代は、会社員はまだまだエスカレーターに乗っていました。初任給以外、何も知らずに就職した人も多いでしょう。それでも、自分よりいくつか年上の人がどういうポジションにいるのかを見ることで、自分の将来はある程度見当がつきました。つまり、キャリアパスがちゃんと見えていたのです。今の若い社員はそうではありません。キャリアパスが見えていないのです。
どういうことをして、どういう責任を果たし、どんな仕事をすればどういう地位にいけるのか。そういったキャリアパスを会社はきちんと示すべきでしょう。
就職に対する意識の変化
就職活動も昔とは違います。就職活動、略して就活と言います。就活に関しては多くの本が出ています。
また、メンタツという言葉があります。これは面接の達人という意味です。今では、どうやったら会社に入れるか、どうやったら面接を通るかかといったノウハウ本が多く出ているのです。
ある有名な方は、本命の面接に臨む前に、2回リハーサルをしろと言っています。私は、これはどうかと思います。就活をする人は年間、だいたい50万人です。彼らがそれぞれ2回リハーサルをするとすれば、100万回の面接がムダになることになります。これは大変な損失です。
それはさておき、今の若者はこのように本や実践で十分な予備知識を得てから面接にやってくるわけです。そういう若い人に、会社についてどう説明すればいいのでしょうか。
今の若者は、会社を選ぶ際に重要なのは給与、休みが取れること、残業がないことと言います。けれども「社員全員の給与が高く、社員全員が残業をせず、社員全員が長期の休みが取れる会社はありますか」と聞くと、「それはないと思う」と答えます。根本のところで理解はしているのです。
ですから、若い人にはこう言ってください。
自分のためではなく会社に貢献してください。会社に貢献すれば利益が伸びます。そうすれば会社は自分に対して還元してくれます。
まず主語を「自分」ではなく「会社」にするのです。
給料に満足出来ないのは、よくある話です。そういう不満を漏らす若者に「じゃあ誰がお給料を払ってくれていると思うの?」と聞いてみてください。おそらく彼らは「社長が払ってくれている」「会社が払ってくれている」と言うでしょう。ここで「そうではない」と教えるのです。
お客様が製品やサービスを買ってくださる。それが収入として会社に入ってくる。だからお客様には感謝をしなければいけない。そして「会社の収入」がすなわち「自分の給与」となる。そのためにはお客様を大事にしなければいけない。会社に貢献しなければいけない。
この仕組みを彼らはきちんと理解してくれるはずです。
どういう社員が求められているか
どういう社員が求められているかは会社によっても違うと思います。けれども基本は「自分で考えて行動できる人」ではないでしょうか。
若い社員に「私たちはどうあるべきですか」と問われたら「自分で考えて自分で行動しなさい」ということを正解として教えてあげましょう。
また、自分の意見を持たなければいけません。大きな会社はよく社員に「自分の意見を言え」と言います。どうしたら社員は自分の意見を言うようになるでしょうか。
まず上の立場の者が「君ならどうする」と常に言うようにしてください。何かを報告させる際にも「君はどう思う。意見を言いなさい」と言ってください。何にせよ、話し合うのはいいことなのです。
若者をどうやって教育するか
最近の若い人の足りないところは何でしょうか。
今の若者は物足りない、辛抱がないと言われます。
辛抱のない社員がに対して「おまえは辛抱がない」と怒る。これはどちらが辛抱がないと思われますか。辛抱がないのは若者ではありません。怒る自分の方なのです。
若い人はいろいろなことを学ばなければいけません。辛抱することも学ばせればいいのです。私たちは教えなければいけません。
昔は「仕事を盗む」「見て学ぶ」とよく言ったものです。今はきちんと説明し、完成形を見せなければいけません。「見ていればわかる」「勝手に考えろ」ではいけないのです。
仕事を任せると若者は張り切る
仕事を任せてやれば、若い人は生き甲斐を感じて、この会社で何かをやってやろうと思うようになります。
若い人に任せるのは不安かもしれません。失敗したら俺の責任になる、この仕事は俺がやりたい、などといった理由で部下に仕事を任せたくない場合もあるかもしれません。けれどもやらせてみましょう。
仕事を任せる場合は結果責任は上司が取り、報告責任、遂行責任は部下が取ることは徹底してください。
ある部長が、中間管理職にあるプロジェクトの采配を任せたとします。その中間管理職は自分の部下に仕事の一部を任せました。さて、その部下がプロジェクトのトップである部長と廊下ですれ違ったと想定してください。その時、部下が部長に「中間管理職にこういうことを言われた、これはおかしいと思う」と言ったとしましょう。
部長はどう答えればいいでしょうか。
「確かにそうだ、君の言う通りだ」と部下の言うことに迎合してしまったらどうでしょう。部下は中間管理職に早速「部長も同意してくれた、だからこれはおかしいのだ」と言うでしょう。
部下の職位によっては、仕事を任せた際、さらにその下の人からの直訴があるかみしれません。けれどもそこで迷ってはいけません。任せた以上は直訴があっても受け付けない。そのくらいの覚悟を持って仕事を任せてください。上司がフラフラしては会社全体がフラフラします。ぶれない人間、ぶれないやり方は大事なのです。
ダメ上司とバカ上司
「今の仕事がつまらない」「俺にこんな仕事しか任せてくれない」「キャリアアップがうまくいかない」「人間関係で悩んでいる」「労働時間や賃金に不満がある」。いろいろな理由で若手社員は退職していきます。
この中の「人間関係」これは多くの場合、上司との関係なのです。
イヤな上司にはイヤになる理由があります。
まず性格がイヤな上司。ねちっこい、しつこい、すぐ怒る。こんな上司は誰でもイヤでしょう。けれどもこれは個人の性格の問題です。ある意味やむを得ない部分もあるでしょう。
次にダメな上司がいます。
このあいだ言ったことをもう忘れている。何度言ってもこちらの言うことを理解してくれない。能力が欠けている。
けれどもこのタイプの上司は多くの場合「でもいい人よね」と言われることが多いようです。能力はないけれど性格はいいタイプ、それが「ダメ上司」です。
性格の悪い上司、能力の足りない上司とは、なんとかうまく付き合いなさいとしか言えません。何度も説明したり、話し合う努力をしたり、どうにか自分でうまく付き合う方法を見つけていくしかないのです。
さて、もうひとつのタイプのイヤな上司が「バカ上司」です。
バカ上司に対しては接し方を考えていく必要があります。
今、世の中には不正や偽装の問題がほとんど日替わりで出てきてきます。なぜこのようなことになるのでしょう。悪いのは経営者だけなのでしょうか。
経営者が言っていることを「はいはいわかりました」と茶坊主をしている中間管理職や、現場からの声を伝えないリーダーは悪くはないのでしょうか。
こういった人たちが「バカ上司」なのです。バカ上司は会社のためにならないことをします。さらに誰かを蹴落とそうともします。
経営者はこのようなバカ上司にはガツンと言わなければいけません。部下や同僚も団結してバカ上司に当たっていって欲しいと思います。バカ上司に「会社にとってよくない」ということをきちんと伝えるのです。時にはバカ上司とは徹底して戦わなければいけないこともあるでしょう。そうしなければ会社が立ちゆかなくなってしまいます。ぜひ、立ち向かっていただきたいと思います。
コミュニケーションの大切さ
すべての基本はコミュニケーションです。まず挨拶は上司から、そして笑顔で行いましょう。
「報告」という言葉は、下の立場の人が上の立場の人に対して言う言葉です。確かに言葉としてはそうです。けれども企業では情報は上に集まるものです。下の人より上の方が情報量は多いのです。
下には報告しろと言い、自分は何も言わない。それではいけません。常に部下に対して発信してください。そうしていると必ず部下は報告してくるようになります。口で「報告しろ」とだけ言っていてもダメなのです。まず自分が実践しなくてはいけません。
会議の時に上司は「自由に発言しろ」と言います。それなのに部下が発言するとその意見を頭から否定したりはしていませんか。
また「言え」と言いながら自分はちゃんと聞いているのかどうかもわからない上司もいると思います。そういう人はたいてい腕を組んで目をつぶって上を向いていますね。
人の言葉に対しては「反応する」ことが大事です。「傾聴する」という言葉があります。まずは相手の方をきちんと見ましょう。相手と向き合って言葉を聞き、返事をする。アイコンタクト、うなずき、相づちも大事です。これはすべて「ちゃんと聞いている」というサインなのです。メモを取る、相手の話を要約するなども同じです。
また、共感することも重要です。「僕はつらいんです」と言われたら、その気持ちを汲んで「そうか、つらいのか」とわかってあげましょう。
そして会議の時は上司の方が部下の意見を聞いてあげることを考えましょう。
意見を言う、話に入ることは睡眠防止にもなります。聴きながら寝ることは出来ますけれど、しゃべりながら寝ることはできません。つまりインタラクティブな関係の会議を心がければ、眠る人もいなくなるというわけです。
部下から具申を受けた時「おれもそう考えていた」「俺も考えたことがある」と言ってはいませんか。それではいけません。たとえ、自分が既に考えていたアイディアであっても、それを言わずにアイディアを出した部下をほめてやってください。そういう深い人間にならなければいけません。あの松下幸之助はそういう人だったそうです。
人間の生き方を会社が教える
若い人が会社に見切りをつける。次第に会社の価値が損なわれていく。これは日本にとっては大きな問題です。こんなことが続いたら日本国は無くなってしまうかもしれません。
今の学校で教えていない「人間の生き方」、それを会社でも教えていかなければいけないのではないでしょうか。
良い会社を作り、良い社会を作る。そして良い国を作っていく。そうしていかなければいけないと思います。
このような状況の中で、トップや幹部の責任は非常に重いものがあります。ですから経営者はは重い責任に見合った高い志と、そして人間力とを持たなければいけません。
先日、京セラの稲森和夫氏の講演を聞きました。その講演内容は非常に感銘をおぼえるものでした。
稲森氏は技術者です。ですから、どうやって会社の経営をしたらいいかはよくわからなかったそうです。それでも従業員や家族を路頭に迷わせるわけにはいきません。
その時に彼は、物事を損得ではなく善悪で判断すると決めたそうです。自分の欲ではなく、善悪で判断する、つまり世の中のためになっているか、人のためになることかで判断する。それが経営の基本とおっしゃっていました。
人を動かすのは力ではありません。人を動かすのは、権力や地位や力ではないのです。心です。
社長も新入社員も同じ人間です。心で動かしていきましょう。
部下を変える一番早い方法は、まず自分が変わることです。自分を変えることは難しいかもしれません。しかし変えていかなければいけません。会社も同じです。会社も変えていかなければいけません。昔のままの価値観では、若者はもうついては来ないでしょう。
試しに「俺は今日から変わるんだ」と周囲に対して発信してみてください。しばらくしたら、もう一度「おれは変わることにした」と発信するのです。そうすれば、周囲はあなたが変わるかもしれないと期待するようになるでしょう。
会社を良くする、会社に貢献する、自分を高めることが会社のためになる、これはすばらしいことです。
担当者のことを考え、会社のことを考え、お客様のことを考えましょう。自分を高める一番の場所が会社であり、高める機会が仕事でもあるのです。
今の若者は自分を高めたいと願っています。どんどん高めてやりましょう。仕事をやりながら高みに連れていくのです。仕事をしているうちに学べることはたくさんあります。教えてあげてください。それが、若者の早期退職をふせぐ手だてのひとつでもあるのです。
協力:「月間人事マネジメント」(株式会社ビジネスパブリッシング)
この講演の内容をPDFでダウンロードできます
3年で辞めてしまう社員をどうやって育てるか