夕刊フジ(1月9日号)

2013年(平成25年)1月9日発売

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私を感動させた1冊

株式会社「多久案」代表で経営コンサルタントの古川裕倫(ひろのり)さんが愛読する1冊が『坂の上の雲』。

産経新聞に長期連載された司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を契機に著者に傾倒する古川さんは当然ながら読んだ。「『竜馬がゆく』と本書の2冊で4千数百万部売れていて、日本の世帯数の半分になる」とし、「それぐらい立派なのにブックオフに行くと意外に司馬作品は見当たりません。1度購読した人が滅多に手離さない」と言う。

物語の中心は日露戦争。古川さんは読後感を「登場人物に立派な人が多いなと圧倒された。比較して自分の小っちゃさに気づいた」と語る。

ハイライト場面の1つが二〇三高地の攻防。日本軍が旅順港にたむろする露艦隊を叩くため、この高地が必要。だが、乃木希典率いる陸軍は攻めきれない。戦死者は増す一方。そこへ総参謀長の児玉源太郎により砲弾が味方に当たってもやむなしと巨砲による援護射撃を行う。
これが功を奏し、高地を奪取する。頂上から港への砲弾は百発百中同然だった。敗軍の敵将ステッセルと乃木の水師営の会見が乃木を伝説の人にする。

ただ、著者の乃木観は厳しい。「『殉死』を先に読み、乃木大将の偉大さを知っていただけにおやっと思ったが、児玉と乃木を比較するのではなく、おのおのが偉いという読み方をした」と古川さんはいう。

古川さんがいうように2人に限らず西郷従道、大山巌、伊藤博文、山県有朋、小村寿太郎、山本権兵衛、東郷平八郎らの偉人が続々登場し、飽きさせない。軍神広瀬武夫中佐もその1人。広瀬は3人の主人公の1人、秋山真之の海軍1期先輩。

古川さんは作中で最も好きな人物に主人公の1人、秋山兄弟の兄、好古を挙げる。彼は陸軍退役後、郷里松山の私立中学校長になり、教育に尽力した。

真之はバルチック艦隊を迎えうつ旗艦「三笠」で”本日天気晴朗ナレドモ浪高シ”と記した。残る主人公「正岡子規がいるおかげで世間と軍隊の比較がされ、軍のこともよくわかる」と見る古川さんが本書からビジネスマンのための32の言葉を引用、解釈を付けたのが『仕事で大事なことは「坂の上の雲」が教えてくれた』(三笠書房)。

「時代が変化しているとき、若い人たちが希望をもって進んだ生き方こそベンチャーの醍醐味」とする古川さんは、ボランティアで「世田谷ビジネス塾」という読書会(原則第3土曜)を開いている。

(文芸評論家・長野祐二)

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